ストーリー


第7話:ゴールド
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 見下ろすと、綿菓子のような丸い物体が落ちている。出会ったときと同じように(といってもまだ1時間ぐらいしか経っていないけれど)、ニボシはアツマの足元にちょこんと座っていた。
「2人目の戦士がこんなに簡単に見つかるなんて、今日はとってもラッキーね」
 もともと切れ長な目をさらに細めて、ニボシは満足そうに「ふふん」と鼻を鳴らした。
「いやあの、ラッキーなのはいいんだけどさ、さっきはどうしたの? ユッキーは?」
 先ほどのニボシの様子から、アツマは彼女があのまま普通の猫に戻ってしまうことを覚悟していた。だから、何事もなかったかのようにニボシが再び現れたことは、彼にとって大きな喜びだった。
 アツマはこの時、何か月も離れ離れだった恋人と再会したような胸の高鳴りを感じていた。もっとも、それは彼にとって予想もしていなかった事態であり、素直にこの感情を受け入れてよいのか判断がつかなかった。誤認だったにせよ、敵の襲来というあの状況が、「吊り橋効果」となって彼の感情に影響を及ぼしているのかもしれない。まずは落ち着いて慎重に行動しよう。
「あ、ごめんね。さっきは多分、依り代の記憶、というか意識に引っ張られたんだと思う」
「依り代?」
「もともとのこの猫、ニボシちゃんね。私が言うと変な感じだけど」
 ニボシは自嘲気味に笑うと、身体をその場に横たえた。
「それはつまり、君はニボシに乗り移ったってこと?」
「うん。意図したわけじゃないけど。……気が付いたら猫だったの」
「じゃあ、乗り移る前は? 『未来から来た』って言ってたけど、君はいったいどこから来たの? どうやって来たの? 君の身体は?」
「ふーん、アツマは本当に知りたがり屋さんなのねぇ。……わかったわ。じゃあまた、わかりやすいところから教えてあげるね」
 コホンとひとつ咳払いをして、ニボシは説明を始めた。
「まずは私の身体について。スリーサイズは上から……」
「え? あっ、ちょ、身体って、そういう意味じゃないでござるよ」
「動揺してるみたいだけど大丈夫?」
「してないです」
「してるよね?」
「いえ決して」
「知りたくないの?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……知りたいです」
 アツマは知りたかった。
「素直でよろしい」とニボシは頷いた。「……私のスリーサイズは、上から40、40、40の理想的な体型よ」
「……猫のかよ!」と思わずアツマは突っ込みを入れた。「しかもそれ違うよね? 明らかに腹囲が……」
「失礼な!」
 ニボシはアツマの靴とズボンの隙間に前脚を入れて爪を立てた。鋭い痛みに「うわっ」と飛びのいて、アツマは自分の足に手を当てた。
 その痛みでふと我に返って辺りを見回すと、すぐ隣には口をぽかんと開けて目を点にしたタムタムが立っていた。彼がいたことをアツマはすっかり忘れていた。
「a?‘Дソ譁★・ュ怜代@af??※」
 タムタムは何かを言いたいようだが、まったく言葉になっていなかった。
「あ、タムタム、ごめん、大丈夫?」
「きっと私のナイスバディーにメロメロなのね」
「いや絶対に違うと思うけど」
 アツマはタムタムの肩を揺すり、さらに「おーい、大丈夫?」と声を掛け続けた。
「?‡そ、喧Ψそん縺?!な、a猫йがしゃべcるなんて」
 タムタムの言葉は、ようやく少しずつ日本語に近付いていった。
「あ、タムタムにもニボシの声が聞こえるんだね!?」
「……アートストーンを持っていれば、私の声はわかるはずよ」
 タムタムにもニボシの声が聞こえる。それはつまり、自分が置かれた状況を彼にも一緒に共有してもらえるということだ。アツマは一気に視界が開けたような気がした。自分ひとりだけが世界に存在するのと、誰かひとりでも他者が一緒に存在するのとでは、ひとりとひとりという数の差を越えた無限の質的な違いがあるのだろう。ゲームのなかの村人などではなくて、世界を共有していると実感できる誰かがいるということは、人が生きていく上で必要不可欠な要素なのかもしれない。
 しかし同時に、お気に入りの玩具を友だちに貸したときのあの感覚、他人の手に渡ったら、もう自分のものではなくなってしまうのではないかという焦燥感も、アツマの胸のなかには生まれていた。それは「愛」ゆえのものなのか、あるいは「独占欲」と呼ばれるものでしかないのか。いずれにしても、ニボシがこれから自分以外の誰かと話すという事実は、彼に少なからず動揺を与えた。もちろん、その思いが理不尽であるということを、頭では理解しているのだが。
 ニボシは起き上がってタムタムの方を見上げ、髭をピンと立てて彼に声を掛けた。
「とにかく、君……タムタムだっけ? あなたは、超機動合唱戦隊バスターガイザーとして選ばれた戦士なの。その石はアートストーンといって、簡単に言えばパワーの源ね。その力を使って、あなたはタムタムゴールドに変身するの」
 どこかで聞いたようなセリフだった。
「『タムタムゴールド』って、栄養ドリンクみたいだね」
「アツマは黙ってて!」
「はいすいません」
「お、俺……」
 ついにタムタムの日本語がまともになってきた。
「俺、バスターガイザーとして戦うよ。師匠、よろしくお願いします!」


第8話へ続く



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超機動合唱戦隊バスターガイザーのテーマ2014
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